シーン別おすすめジャズ Recommended JAZZ by Scenes

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シーン別おすすめジャズ Recommended JAZZ by Scenes

恋愛シーン

人の歴史がどれほどあろうと、恋愛シーンには次の3つのパターンしかない。

1、出会い
2、熱愛
3、別れ

また、音楽が恋愛シーンに欠かせないものだということは、映画が証明してくれる。人は、他人の恋愛シーンでさえ、イメージに合った音楽の挿入を喜び、一喜一憂し、感情移入をする。自分の恋愛の場合はなおさら。その時の恋愛と音楽はセットのものとして、人の記憶にとどまり、色あせることがない。今回のシーン別オススメジャズはその「恋愛シーン」にピッタリのジャズ演奏をご紹介。さまざまな人々とジャズとの、出会い、熱愛、別れがあなたの人生をより豊かなものとしてくれるでしょう。

出会い

幾多の恋愛シーンの中で、一度しか経験できないものは出会い。出会いには、未来しかない。男と女でしかないものが、神にも天使にも成りえるのが、出会い。恋に年齢は関係が無いが、それぞれの年代で変わって来るのも恋愛の特徴。若い時代特有の向う見ずで情熱的な恋も良いけれど、酸いも甘いも知りつくした大人の恋もお洒落なものだ。ここでは、2種類の「天使」を聴き分けてみよう。

ラルフ・マクドナルド

「ジャスト・ア・トゥー・オブ・アス」

ここでの「天使」は1曲目、南の島の楽園での出会いを想わせるサウンドが心地よい。テーマを奏でるのはアルトサックスのグローヴァー・ワシントンJR。はにかむ様な出会いのときめきをゆったりと奏でる。この「天使」は例えるならば10代の恋。これからの二人の未来を祝福している様な演奏。

アルバート・アイラー

「ライブ・イン・グリニッジ・ヴィレッジ」

一口に「天使」といっても色々。サタンのような「堕天使」はさておき、大人の恋にぴったりのビターな「天使」像がこの2枚組ディスク1の6曲目の「天使」。恋は楽しいものでもあり苦しいものでもある。大人ならば、アイラーの嘆きのようなサックスの中に、彼の信じる天使への崇拝にも似た響きを感じるはず。恋をした男と女の関係は、互いを信じ、崇拝し、疑う。ゴージャスなピアノの伴奏と、サックスの割れた鳴りが、微妙な恋のバランスを表しているかのような名演。

熱愛

男と女は、磁石で弾かれ合う様に恋に落ちる。二人は映画のワンシーンのような世界に陶酔し、そこにおいては全てのものが二人のためのものに変わる。恋愛シーンにおいてもっとも情熱的でそれでいて危うい濃密な時間。サーカスの綱渡りのような緊張感とそれによってもたらされる満足感は得難いもの。

ボブ・ジェームス

「ヘッズ」

軽快なボズ・スキャッグスのカバー「ウィー・アー・オール・アローン」などが楽しいこのアルバムの5曲目「ユー・アー・ソー・ビューティフル」は、熱に浮かされた様な恋の時間をゴージャスなサウンドで再現。ソプラノサックスのテーマが切ない、青い果実のような恋の瞬間を表す。続く最終曲「ワン・ナイト・ラヴィング」は、はかない青春の恋を歌い上げ、一転アドリブに入るとグローヴァー・ワシントンJRのテナーサックスソロがサスペンスタッチに響く、まさにロミオとジュリエットの様な世界観。

クリフォード・ジョーダン

「イン・ザ・ワールド」

1曲目「ヴィエナ」は、まさに画家のクリムトと作曲家のマーラーの両グスタフが活躍した甘美で官能的なエロスを湛えた1800年後半時代のウイーン。熟した果実のような濃厚な香りと危険な香り。むせ返るような頽廃を感じさせるリアルな大人の恋のテーマとして、これほど適切なものは無い。フリーのトランペット奏者ドン・チェリーを加え、ハードバッパーのクリフォード・ジョーダンが前衛をも取り込み、ウイーン分離派や新ロマン派の感性をも感じさせる一大傑作。

別れ

人と人との出会いの数だけ別れがある。どういう形であれ、別れは避けられないもの。恋愛シーンでは、しばしば別れは悲劇を伴う。もしくは、悲劇が別れをもたらす。避けられないものならば、次の明るい未来や出会いに向けて、せめて前向きに別れを体験したいもの。一度は思い切り別れに浸り、そして明日からは前を向いて生きよう。

チェット・ベイカー

「枯葉」

2曲目、このアルバムの英題の表題曲「シー・ワズ・トゥ・グッド・トゥー・ミー」。このスタンダードはもともとは女性が歌うもの。ここでは、歌詞のヒーの部分をシーに代えて、チェット・ベイカーにより歌われる。彼の中性的な響きが、男と女、どちらの心情ともシンクロし、失恋の痛手を優しくかばうように歌われる。もしかしたら、チェットは過ぎ去りし若き日の自分に向けて歌っているのかもしれない。

ビリー・ホリデイ

「レディ・イン・サテン」

「あなたなんか居なくても、きっとうまくやれるわ」と軽快に歌われる「アイム・ゴナ・ゲット・アバウト・ユー・ヴェリー・ウェル」。淡々とした歌唱だけに、ビリー・ホリデイの痛みが伝わる名演。ストリングスの響きの明るさと、ビリーの歌が平行線をたどり、心はここにあらずかのような失恋の傷が生々しく痛々しいまでに響く。

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