フュージョン界の長寿バンド イエロージャケッツ

2014年1月

フュージョン界の長寿バンド イエロージャケッツコットンクラブ 東京

ジャズイメージ30年以上バンドとして活動している長寿フュージョンバンド「イエロージャケッツ」をコットンクラブで初めて観る事が出来た。さすがに事前に勉強を兼ねて最近のCDを聴きこむと、年と共に音楽性がどんどん難しくなってきている観がある。

その久々に聴く「イエロージャケッツ」が、盤石のサウンドを支えた長年メンバーだったベースのジミー・ハスリップ脱退後に一昨年メンバーになったのがあのジャコ・パストリアスの息子、フェリックス・パストリアス。彼に変わってどう若返ったのかと、ライブならではの熱気やハプニングを求めて期待はいやがおうにも高鳴っていた。

最初に目が行ったのは、やはりフェリックス・パストリアス。色々な意味でレジェンドな父親と同じ楽器をやるフェリックスには期待と同時にやや不安感も覚える。往々にして父親とは違う性質や気質、個性の人間なのに、どうしても観る方は続きを観たいと思ってしまう。これがプレッシャーにならなければと言う杞憂の通りに、演奏前のステージを見ると、フェリックスのところにだけ譜面台が置いてあった。

クラシック音楽やこれが一回限りのセッションだったのならば、無論気にすることなど無い。しかし、イエロージャケッツはチームワークが売りの長寿バンドなのだ。しかも、フェリックスが加入したのは2012年1月。ちょうど丸2年経っているはずだ。譜面を必要とする曲があるのだろうか。これが最初の印象だった。

実際聴き終わったフェリックスへの感想は、もっと奔放さがほしいというものだ。タトゥーなどのルックスはどうあれ、非常にまじめな好青年が真面目に弾いているという印象だ。つまりはその真面目さは、バンドにとっては広がりのなさになり、面白さにはつながっていない。現段階では、まだまだジミー・ハスリップの存在の大きさが思われる。フェリックスには今後を期待したい。

今回のもう一つの興味は重鎮メンバー、ボブ・ミンツァーだった。実は、1990年にボブが加入した時には、意外な思いがしたものだった。爽やかさが売りのL.Aフュージョンの代表格のイエロージャケッツと、ボブの持っている地味さ、難解さ、よく言えば渋さが相いれない感じがしたからだった。もしかしたら、1988年「ポリティクス」でグラミー賞を取り、ある意味上りつめた彼らが、サウンドを大きくジャズ寄りに舵を切るためだったのかとも思われた。ボブ・ミンツァーと言えば、ジャコ・パストリアスやマイク・マイニエリとの共演など、硬派なフュージョン仲間に属し、当時のテナー吹きに取ってはあこがれのサウンドと音楽性の持ち主だった。

その期待のボブ・ミンツァーが、疲れていたのか、調子が出なかったのか意外なほどあっさりとした演奏に終始していたのが驚きだった。

確かに、MC担当でもあるボブの喋りに、日本のオーディエンスは反応が鈍いかもしれない。拍手も控えめで、掛け声などもほとんどない。気が乗らない気持ちも分からなくはない。それに、これはPA的なサウンドメイクの問題かもしれないが、テナーの音が意外なほど芯が無く聴こえ、音も小さめで、迫力が感じられない。

それでもアンコール前の最後の曲、「ホワイ・イズ・イット」では燃え上がる様なブロウを聴かせてくれ面目を保ったボブが、全曲とは言わないが、最初から全開で吹いてくれれば、若い連中にはまだまだ足元にも及ばない音楽性やテクニックを持っているだけに、違った印象になったと思う。バンドにとっても良い事だろう。もしかしたら終始リードを気にしていたので、楽器の調子も今一つだったのかもしれない。

全体としては、一番乗りが良く楽しかったのはアンコールでやったいつものシャッフル「リヴェレイション」(1986年シェイズより)だと言うのは、彼らの本音なのかもしれない。

ところで、この日は丁度ラッセル・フェランテの誕生日だと言う事だった。1952年1月18日生まれの62歳と言う事になる。その事をボブのMCで知った。ここは、ファンとしてはおめでとうを言いたいところである。都合が良い事に、彼のファンが会場には沢山詰めかけている。本当ならば皆と一緒にお祝いしたいくらいの気持ちだった。

ところが、ボブが誕生日だと、コメントしただけで、それに対するバンドやお店のリアクションがまったくない。これには、少し残念な思いがした。

ここで思い出すのが、人柄が残念な事で有名なスタン・ゲッツと頑固なビル・エヴァンスのエピソードだ。

二人は少ないが共演しており、特に有名なのがいわゆるケンカコンサートの1974年の欧州ライブ。

この大舞台で、二人は久々に共演し、ビルは先輩スタンに万全を期すためにリハーサルをうながした。どうにかリハーサルが終了し、曲目も決めてのぞんだ本番のコンサートで、大観衆を前にスタンは、まったく違う自作のブルースを吹き始めた。

驚いたのは、ビル達トリオ。そこは、実力派ぞろいのトリオなのですぐに伴奏をつけ始めたが、ビルの心中は、それこそ煮えくりかえっていたのだろう。すぐに弾くのを辞めてしまう。

スタンは、意気揚々と自分のコーラスを吹き終わり、(またそのアドリブがスタンのブルースの中でも最高の出来をしめしている)ソロ回しでビルを促す。ところがまったくそっぽ向いているビルに気付きおそらくスタンは口の端で笑い、またソロを吹き始め曲を終えてしまう。

スタン・ゲッツの面目躍如なエピソードだが、この話には続きがある。

ところ変わってベルギーに移り同じメンバーでのライブ。1974年8月16日。この日は奇しくもビルの43歳の誕生日だった。「ユー・アンド・ザ・ナイト・アンド・ザ・ミュージック」のイントロ、サックスのルバートソロが始まるとそこでスタンが吹いたのが、「ハッピー・バースデイ・トゥ・ユー」だった。

この日上機嫌で、しかも絶好調のスタンのハッピーバースデイソングに、会場は水をうったように聴き惚れている。この二人が、反目し合っていることなど、会場の誰もが知らない。心温まるスタンの演出としか映らない。

翻って、今回イエロージャケッツのライブ当日、25年も一緒にやっている仲間の誕生日に、ボブがサックスで同じ事をやって上げても、ラッセルや会場は喜びこそすれ、誰もおかしいとは思わないはずだった。むしろ、何も無い方がおかしいと思ってしまった。

おそらくは、このバンドは全員ファミリーの様に仲が良いはず。プライベートでは、お誕生日などは盛大に祝福しているのだろう。その、ファミリアーな楽しさを、演出と取られても会場にいる観客たちに少し分けて欲しかった。居合わせたファンは誰もがそう思ったはずだ。

それを裏付けする様な出来事が、ステージ終了後に起こった。最終日のラストステージだったために、楽器をしまっている所にラッセル・フェランテが自分のキーボードを片付けに一人現れた。その時、ジャストのタイミングでまだライブの興奮冷めやらぬ店内に「ハッピーバースデイ」が流れたのだ。気がついて、すぐに拍手をする残っている観客。私の周りでも、ステージにいるラッセルにおめでとうと言う声と拍手がなり響き、粋な演出にさすがと思った瞬間、同席した人から「なんだ、あっちか」の声がかかった。後ろ側の席だったので私からは見えなかったが、お客の中に誕生日の人がいて、その客への店からのケーキプレゼントの演出だったのだ。いつもならば、見知らぬ者同士でも素直におめでとうを言える状況だが、この時ばかりは、少ししらけてしまった。

そこに居合わせた人たちから温かい拍手をもらえるのは、もちろん誕生日のお客もそうだが、本来はステージで自分の楽器を片づけている、偉大なキーボーディストのラッセル・フェランテその人ではなかったのか。ライブの中で、そういったシーンがあったのならば、ラッセルにとってもメンバーにとっても、そしてなによりもそういう偶然に居合わせたラッキーな観客にとって幸せな思い出になったと思われるだけに残念だった。

なんともエンターテインには無頓着な雰囲気が、好ましくもあり、寂しくもあったのは事実だ。この素晴らしいミュージシャンたちを誰かしっかりプロデュースしてくれる、ビートルズを売り出したブライアン・エプスタインのような人は現れないものだろうか。

a rise in the road

「When The Lady Dances」

この最新作からは、1曲目のこの曲を披露した今回のライブ。わかりやすいメロディとは言い難い前作「タイムライン」と比べても、さらにテーマが難しくなっている。この曲はさながら、大学教授が女性をダンスに誘うかのようなもどかしい難解な展開になっている。ジャコの息子フェリックスには、当然期待してしまうが、酷なのは承知の上で、音の粒立ちがまだまだ父親やジミー・ハスリップに比べるとはっきりしない感がある。次回作に大暴れを期待!

Timeline

「Why Is It」

このアルバムが出てからは、ライブでの最後の曲の定番となったこの曲。ライブでは、ボブのサックスとウィル・ケネディのドラムによるスリリングなイントロが聴きどころ。今回のステージでも一番熱くなったのがこの曲だった。このCDを最後に、長年メンバーだったベースのジミー・ハスリップが脱退する事になる。全員がほぼ還暦の腕達者で強固な4人組の最後まで貫かれたチームワークが見事。

SAMURAI SAMBA

「ホームカミング」

このCDは、1985年の発売当時、レコードの頃から幾度となく聴いたもの。イエロージャケッツといえば、いまだにこれが一番好きかもしれない。レコード当時のA面「ホームカミング」とB面「シルヴァーレイク」の両1曲目は、甲乙つけがたいさわやかな名曲であり名演。うがった演奏も少なくないフュージョンシーンにおいて、突き抜けた明るさと明快さと爽快さを兼ね備えた当時の彼らの真骨頂。アルトサックスのマーク・ルッソが出色の出来。この後このメンバーでは「ポリティックス」により1988年のグラミー賞のベストフュージョンパフォーマンス賞を受賞することになる。

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